フランス語読解教室 III

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zoom RSS ジャンケレヴィッチ『死とはなにか』(1)

<<   作成日時 : 2011/09/15 11:18   >>

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[注釈]
 
* l’existence de quelqu’un : あとの言い換えからすると「誰かが存在したこと」existence は、文脈によっては「生活」ほどの意味になることもあります。「実存」となるのは、かなり特殊な文章においてです。
 * la moindre ide’e : moindre に定冠詞がついていますから、ここは最上級表現です。何度か出てきたように、最上級表現にはときに「譲歩」の意味が込められることがあるので、注意が必要です。
 * Alors, il me reste pour tout viatique ce message : 死という事実は人智を以てしては計りがたい。「だから」私たちにはメッセージが残される、ということでしょうね。il reste...は、非人称構文です。ここの viatique は、secours indispensable の意味ととりました。以前どこかでジャック・ラカンの「生誕と死は思考の埒外だ」という趣旨の言葉を読んだ記憶があります。ここで Janke’le’vitch がいう「メッセージ」とは、そうした謎に向き合うための「ヒント」のようなものなのでしょうね。

[試訳]

 死とは、取り返しのつかない、やり直しようのないものでありながら、この出来事はある人の生存を、その人が生きていたという事実を永遠に封印してしまう。それは、誰にも代わることのできない、滅びることのない、打ち消しようのない事実です。それはメッセージです。もちろん、死者は死んだままです。ですが、このメッセージの滅びることのない性質のうちに、私は、人間にとって超自然的な、説明不能な、考えられさえしないある要素を見ています。でも、実のところ、それはたぶん大変単純なものでしょう。ですが、私たちはそれをどう考えればよいのかまったくわからない。というのも、そこで問われているのはまったく別の次元のことだからです。ただ、私たちはそのことに納得がゆかない。なぜなら、私たちは経験的な思考の型にこだわっているからです。なにか確かなものを期待しているからです。是が非でも、なにか具体的なものを思い描きたいのです。なぜなら、問われているのはまったく別次元の事柄であるのですが、そのことが私たちにはまったく飲み込めないし、考えもつかないのです。ですから、そこにはペテン師がつけ入る隙がまだあるのです。そうだからこそ、私には頼みの綱としてこのメッセージが残されています。人が生きていたという事実、単純な神秘でありながらも、それ自体深い神秘に包まれた事実が。ただ、私たちは、問いを自らに課し、こうしたこと全ての理由を問うほどの十分知的な能力を備えているのですが、この謎に答えるに十分な能力は持ち合わせていないのです。ただ問いを自らに課すことができるだけなのです…。
……………………………………………………………………………………………..
 料理に苦手意識のあったぼくの母は、毎日の献立を考えるのが一番の苦労だ、とよくこぼしていました。ぼくの場合は毎日のことではありませんが、今度は教室で何を読もうかな、と頭のどこかで思いを巡らせている時間は結構長いかもしれません。
 これは是非教材に、と思う文章に思い至らない時は、やはり今の自分の関心に引きずられてテキストを選ぶこととなります。この夏、炎暑に耐えながら久しぶりにマルセル・プルースト『逃げ去る女』(『消え去ったアルベルチーヌ』)を入念に読み返していました。帰らない人となった恋人の不在を嘆き、苦しみ、やがて忘却に至る男のお話です。同作品を考える上でジャンケレヴィッチ『死』を読み、その入門書でもある<<Penser a` la mort ?>>にも目を通しました。いかがだったでしょうか。肩ならしにしても、みなさんには易しすぎたかもしれませんね。misayoさん、ウィルさん、shokoさん、Mozeさん、皆さんの訳文もそれぞれ正確なものでした。
 Mozeさんのおっしゃるように、古東哲明の著作は、「図らずも」今回のテキストの予習になっていたかもしれませんね。古東氏の著作楽しんでもらえたのなら、なによりです。ぼくも、なにかのさだめでこの世で会えなくなってしまった人の姿を夢で見かけることが時々あります。日本の和歌の感性、フォーレの歌曲に倣うなら、夢での邂逅を目覚めて哀しまなければならないのでしょうが、ぼくも淡い喜びを噛みしめています。
 それでは、次回は同テキストを最後まで読むことにしましょう。28日(水)に試訳をお目にかけます。その頃には名残の暑さもようやく翳りを見せていることと思います。


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