フランス語読解教室 III

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zoom RSS ジョン・バーガー「モネ、彼方の画家」(3)

<<   作成日時 : 2011/03/23 10:45   >>

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 [注釈]
 
 * Sauf que ...et, qu'une fois peint,… : 筆者はモネの描いている l'air は、スピノザの思念する une pense'e を思わせると言うのですが、ただふたつのものには違いもあって、それがそれぞれ que以下だということです。
 * Le flux n'est plus temporel, mais substantiel et extensif. : ここは、前回扱った est-ce que le flux du temps ? Je ne le pense pas. からの展開です。
 ちょっとここで『エチカ』の一文を引いておきます。
「第一部 神について 定義 
 六 神ということでわたしが解るのは、無条件に無限な存在者、つまり無限に多くの属性でなっている実体であり、その属性の一つ一つが永遠でかつ無限な本質のあり方を表現する。」(佐藤一郎編訳『スピノザ エチカ抄』みすず書房)
 つまり、バーガーは、モネの描く「流れ」=「大気」を、スピノザの考える「神」あるいは「自然」ではないか、と言うわけです。
 
 [試訳]
 
  フェルメールは、オランダの哲学者スピノザとまさに同時代人であった。二人はともに光学レンズに関心を持ち、またおそらくは出会っていただろう。ただいかなる証拠もないけれども。スピノザ哲学の基本命題のひとつは、実体は不可分であり、すべては、その延長が無限である同じ実体の一部である、というものだ。第二命題は、スピノザが「思考実体」と呼ぶものと「延長実体」とは、唯一の同一のものであるとする。
  簡潔に表現されながらも刺激的なこうした命題に留意して、ふたたびモネに立ち戻ってみよう。すべてのものを包み込む大気は、連続性と無限の延長を示している。もしモネが大気を描くことに成功したのならば、あたかも思考を追うように、彼は大気を跡づけることができるはずだ。ただ、大気は言葉を発することなく漂い、一度描かれても、それは色彩や、タッチ、描き重ねられた絵の具の厚み、影、なぞられた跡、かすかな傷といったものにおいて目に見えるだけである。画家が大気の描出に迫るにしたがって、今度は大気の方が、画家と彼の元のテーマを彼方へと連れてゆく。モネの「流れ」とは、今や時間的なものではなく、どこまでも広がる実体的なものである。
  それでは、大気は画家とテーマをどこへ連れてゆくのであろうか。それは、大気が包み込んでいたもの、これから包み込むものとは別のなにかに向けてであろう。ただ、それに対して私たちはこれといった名を持ち合わせていない。それを抽象的に名指してみても、それは私たちの無知をさらすことにしかならないだろう。
…………………………………………………………………………………………………………..
  こちら、関西では大震災の影響は大変軽微なものです。非常に限られた物品などは品薄状態が続いている、と耳にする程度です。
  ウィルさん、ご丁寧にご連絡ありがとうございます。どうかお疲れが出ませんように、気をつけて下さい。
  バーガーの文章を読み終わったら、今回の東北関東大震災を報じるフランスの論説記事を扱うつもりでいます。大地震・津波が起きた直後の報道は、フランス発のものも大変同情的というか、激励の気持ちに満ちたものでした。ただ、Fukushima原発事故に焦点が移ると、その全体的なトーンは変化しました。
  たとえば、先週半ば過ぎには早々と「死者3万人」という数字を上げたり、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』とかけて、フクシマには「世界の終わり」が象徴されている、といった、とある文芸評論家の論評が発表されたり。また、北京から東京に呼び寄せたアラン・シャルロンというフランス・テレビジョンの有名特派員をOsaka に避難させ、そこから今でも日本レポートをさせています。
  村上龍は日本というアウェイで活躍する外国人の避難騒ぎに理解を示していましたが、ぼくは今回のフランスの姿勢には少し違和感を感じています。まあ、放射線の危険に身を晒してまで出張先で仕事などできません、というのは非常にフランス的ではあるのですが…。
  十五年の時を隔てて阪神淡路と今回の大震災を経験した日本社会は、今後やはり変わらざるをえないでしょうね。被災地域に最大限の支援を緊急に行いながらも、それと同時に、今度こそ、この社会の帰し方行く末をしっかり見つめ直さなければならないと思います。
  そのためにも、大変示唆に満ちた本を紹介します。小熊英二『私たちはいまどこにいるのか 小熊英二時評集』(毎日新聞社)
  小熊英二は、ご存知の方も多いと思いますが、ここ十年あまりのあいだに、つぎつぎと量・質ともに重要な著作を世に問うている社会学者・思想史家です。小熊からぼくがもっとも教えられることは、今の日本社会の移り行きを、明治の近代化以降100年以上のスパンで、統計と言説の精密な分析を通して見つめることです。今目の前で、ある風潮が支配的であり、あたかもそれが不変の真実のように思えても、それは世界の経済社会に組み込まれた、日本という社会の構造に起因する一時的、相対的なものであることが、小熊の著作を通して明らかにされます。
  同書に収録されているインタヴュー「"つながりの喪失" "経済中心"を超える」の一部を紹介しておきます。ニートということばに象徴されるように、2000年代以降大きくなった若者批判の声に、小熊はこう答えています。
 
  -- 「大人たち」の規範は、高度成長からバブル崩壊までの三十年あまりの間にできたものにすぎません。日本で求人倍率が一倍を超え、終身雇用が広がったのは、六十年代以降です。(…)いまの「大人たち」はそういう特殊な三十年しか生きた経験がないから、それが「あたりまえ」だと思っているかもしれません。(…)右に述べた規範を内面化している若者は、(…)就職がうまくいかなかったりすると「自分はクズなんだ」と思い込んで悩んでしまう。しかしそれは、ある特定の社会の、ある特定の時代にできた規範からちょっとはずれているというにすぎません。
  
 同書にはこういったインタヴューなどが多く収録されていて、大変読みやすいものとなっています。小熊社会学入門としてもお薦めです。
……………………………………………………………………………………………………
  それでは、「モネ論」次回は最後まで読み通しましょう。
  Shuhei




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